犬のてんかん

犬のてんかん~もしも愛犬が体の一部や全身を痙攣させたら~

私たちが日常で愛犬と共に過ごす中で、犬が突然倒れて震えだす様子を見たことはありますか?
もしくは、何かを見つめて空を見るかのような姿勢をとることがありますか?

これらは、予期せぬ瞬間に現れる神経疾患である「犬のてんかん」の兆候かもしれません。
理解しづらく、見ていて心配になる症状ではありますが、適切な知識とケアがあれば、愛犬との生活をより良く続けることが可能です。
では、犬のてんかんとは何か、その原因や治療法について詳しく見ていきましょう。

ここでは、犬のてんかんの主な原因はもちろん、症状から対処法などをまとめていますので、是非ご参考になさって下さい。



犬のてんかんの概要

犬のてんかんは、主に神経細胞の過度な活動によって引き起こされる神経学的な障害です。
この過活動は、突然の電気的な放電となり、犬が異常な行動を示す「発作」を引き起こします。
この発作は犬にとって非常に怖い経験であるとともに、見ている我々にとっても大変な心配の種となります。

犬のてんかんは一般的に2つの種類があります。
一つは原発性てんかん(または特発性てんかん)と呼ばれ、これは遺伝的要因または特定の原因が見つからない場合に診断されます。
多くの場合、このタイプのてんかんは若い犬(通常6ヶ月から5歳)に見られます。

もう一つは続発性てんかんと呼ばれ、これは具体的な医学的状態(脳腫瘍、脳の炎症、頭部外傷など)が発作の原因となっている場合に診断されます。

いずれの種類であっても、発作が始まったらすぐに獣医の助けが必要です。
そのような状況を見分けるためには、発作の典型的な症状について知っておくことが大切です。

犬のてんかんの発作症状

犬のてんかんの発作症状には多様な表現形式がありますが、主な特徴は以下の通りです。

  1. 強直間代型の発作(大発作):
    犬は突然失神し、両側の四肢を硬直させます。
    口から泡を吹くこともあります。この発作中には、犬は意識を失い、全身をピクピクさせることがあります。
    通常、この発作は1〜3分続きます。

  2. 局所発作:
    これは特定の体部位(例えば一つの足や顔の一部)だけが異常な動きを示す発作です。
    その動きは急に始まり、数秒から数分間続きます。

  3. 後遺症期:
    発作が終わった後、犬はしばしば混乱した状態になります。
    この段階では、飼い主が静かに犬を慰め、可能な限りリラックスさせることが重要です。

重要なことは、発作自体は一般的には痛みを伴わないということですが、それは非常に怖い経験であり、その後の混乱期は犬にとってとてもストレスフルです。

犬のてんかんの基本用語と定義

てんかん発作には「全身性の発作(大発作、全般発作)」と「意識が消失しない軽度な発作(小発作、焦点発作、もしくは部分発作)」があります。

てんかんの基本用語 定義
発作(Seizure)

 突然生じる短時間の一時的な変調のこと指す広い概念です。
必ずしもてんかんを意味しているわけではありません。

てんかん発作(Epileptic seizure)

 脳内における同時発生的、かつ多くの場合は自己制御的な神経細胞の過活動の発現のことです。
 ここで言う「自己制御的」とは、治療しなければ悪化する傾向がある状態の事を意味しています。

反応性発作(Reactive seizure

 正常な脳機能から一時的な機能の乱れが生じる際の、自然な反応の結果として起こる発作のことです。
 原因や混乱が修正され次第、脳の機能は回復します。

てんかん(Epilepsy)

 てんかん発作に対する継続的な傾向によって特徴づけられる脳の病気のことです。
 自然発生的なてんかん発作が24時間以上の間隔をもって最低2回起こることが基準とされます。

 
※てんかん様発作
てんかんとよく似た症状を示すものの、実は全く別の原因から起こる発作のことです。
犬や猫がてんかんなのかどうかを診断する際は、まず基本的な診察と検査によって「てんかん様発作」の可能性を除外しておく必要があります。
また診断の精度を高めるため、動物病院では飼い主に対して様々な質問が出されます。

犬のてんかんと間違えやすい発作

犬のてんかんと間違えやすい発作がいくつかありますので、下記にまとめています。
 

てんかんと間違えやすい発作  
反応性発作

体内の異常が原因となって起こる発作のことです。
繰り返し発生するものではなく、原因さえ取り除けば症状は消失
します。
具体的には低血糖症、低酸素症、低カルシウム血症、高カルシウム血症、低マグネシウム血症などの血液異常、腎臓疾患肝臓疾患といったの内臓異常、毒物有毒植物の摂取による急性中毒などです。

ナルコレプシー(narcolepsy)

慢性の睡眠疾患のことです。
犬や猫は眠いわけではないのに、突然突っ伏したり横に倒れたりします。
継続時間は数秒~30分で、外界からの刺激で元に戻ることが多いようです。
てんかんが激しいけいれんと硬直を特徴としているのに対し、ナルコレプシーは全身の脱力(カタプレキシー, cataplexy)を特徴としています。
原因としては遺伝(ドーベルマンラブラドールレトリバー)、自己免疫疾患、神経系の不具合(ヒポクレチン異常)などが考えられますが、よくは分かっていません。
食餌や遊びなど、発症の引き金となるものが明確な場合は、それを生活環境の中から排除します。
そして転倒しても大けがをしないよう、常に安全な場所を確保し、動物をよく観察するよう心がけます。

シェイカー症候群(shaker syndrome)

てんかんのように激しくけいれんすることはないものの、理由もなく体が小刻みに震えてしまうという病気です。
原因は不明ですが、おそらく遺伝病の一種だろうと考えられており、被毛が白い小型犬(マルチーズウェストハイランドホワイトテリア)で多く発症します。
多くの場合、コルチコステロイドの投与によって1週間ほどでよくなりますが、まれに長期化することもあります。
甲状腺機能亢進症などとの鑑別が必要となりますので、一度獣医さんに相談した方がよいでしょう。

特発性頭部振戦(とくはつせいとうぶしんせん)

頭が垂直方向や水平方向に小刻みに揺れる疾患のことです。
意識を失うことはなく、立ったり歩いたりすることができます。
好発品種はドーベルマンボクサーブルドッグ、フレンチブルドッグシェットランドシープドッグなどで、多くは2歳未満で発症します。
今のところ治療法はありませんが、生命を脅かす病気ではありません。

起立性振戦

犬が立ち上がろうとする時や座ろうとする時、折り曲げた手足が小刻みに震える疾患のことです。
歩行障害や痛みを伴うことはありません。
好発品種はグレートデンマスティフ、スコティッシュディアハウンドといった超大型犬で、通常は2歳未満で発症します。
症状が進行することもありますが、生命を脅かす病気ではありません。

老齢性振戦

加齢に伴って出現する震えのことです
好発品種はテリア種や日本犬で、立ち上がろうとするときの後足でよく観察されます。
原因は不明で治療法もありませんが、生命を脅かす病気ではありません。

強迫神経症

まるで何かに取り憑かれたように無意味と思われる行動を延々と繰り返す病気のことです。
一方、てんかんの症状の一つとして「自動症」(automatism)というものがあり、「何もない場所でカチカチを何かを噛む」、「頭が傾く」、「その場でグルグル回る」、「片足を繰り返し挙げる」といった意味不明の行動を繰り返すようになります。
両者は非常に似ていますが、てんかんの方が短時間で収まるのに対し、強迫神経症の方は時として1日中繰り返すことがありますので、鑑別する際のヒントになるでしょう。

犬のてんかんの種類

てんかんはその発症原因によって、主に「一次性てんかん(特発性てんかん)」と「二次性てんかん(症候性てんかん)」の二つの種類に分けられます。

一次性てんかん(特発性てんかん)

  • 犬の脳の構造的な異常や明確な原因が見当たらない場合に診断されます。
  • 遺伝的な要素が関与していると考えられており、特定の犬種によく見られます。
  • 生後6ヶ月から6歳の間に最初の発作を経験することが多いです。

二次性てんかん(症候性てんかん)

  • 明確な脳の疾患、損傷、代謝異常など、特定の原因によって発症します。
  • 脳腫瘍、脳炎、脳の血管障害などが原因となることがあります。
  • 幼犬から老犬まで、発症年齢は様々です。

どちらの種類であろうとも、発作は犬にとって困惑とストレスを引き起こします。
発作が起きたら、すぐに獣医に連絡し、適切な診断と治療を受けることが必要です。

犬のてんかんの投薬治療

犬のてんかんの投薬治療は、定期的に薬を飲ませる投薬治療がメインとなります。
犬のてんかんの治療は、発作の頻度や重症度、それに伴う症状や健康状態を考慮して獣医が選択します。
一般的に、発作が頻繁に起こるか、単一の発作が長く続く場合、薬物療法が選択されます。
それでは具体的な投薬治療について見ていきましょう。

  1. 抗てんかん薬:

    • フェノバルビタールやポトブロモマイドは、長年にわたりてんかんの発作を制御するための第一選択肢とされてきました。
      これらの薬は発作を抑制するために脳内の神経伝達を調整します。
    • 新たに開発された薬物であるレベチラセタムやゾニサミドも、てんかん治療に有効とされています。
  2. 長期療法:

    • てんかんは治療を必要とする長期的な状態であり、通常、抗てんかん薬は一日一回から二回の投与が必要です。
      一度投薬を開始すると、突然の中断は新たな発作を引き起こす可能性があるため、獣医の指示に厳格に従う必要があります。
  3. 投薬調整:

    • 獣医は定期的に犬の健康状態と薬物レベルをチェックし、投薬量を調節します。
      これは、薬物の効果を最大限に発揮し、副作用を最小限に抑えるための重要な手続きです。

抗てんかん薬は、正しく使用すれば発作を有効に制御できますが、全ての犬が同じ反応を示すわけではありません。
そのため、各犬の個々の需要に応じて治療を適応させることが重要です。
また、薬物療法だけでなく、ストレスの管理、良好な生活習慣の維持も、てんかんの管理にとって重要な要素となります。

犬のてんかんの予防法

犬のてんかんの予防は、その発生原因が遺伝的なものであること、または明確な原因が特定できない場合が多いため、具体的な予防策が存在しないと言えます。
しかし、一部のてんかんは特定の疾患や頭部外傷などから生じることもあります。
これらは予防可能な場合もあります。

以下に、てんかん発症リスクを低減させるための一般的なアドバイスをいくつかまとめてみましょう。

  1. 安全な環境を整える:

    • 犬が怪我をするリスクを減らすために、安全な生活環境を提供します。
      頭部を打つ事故を避けるために家具の角などに注意を払い、遊びの時も適度な注意を払います。
  2. 健康的な生活スタイルを促す:

    • バランスの取れた食事と定期的な運動は、全体的な健康状態を維持し、様々な疾患を予防するのに有効です。
      これにより、疾患に起因するてんかんのリスクを減らすことができます。
  3. 定期的な健康診断:

    • 獣医と定期的に健康診断を行い、疾患の早期発見と早期治療を実現します。
      これにより、特定の疾患に起因するてんかんの発症リスクを低減できます。
  4. 遺伝的リスクの管理:

    • 一部の犬種では、てんかんの発症リスクが高いとされています。
      これらの犬種を選ぶ場合、ブリーダーから詳しい健康情報や家系情報を得ることが重要です。また、これらの犬種の繁殖には慎重に取り組むべきです。

これらのアドバイスを実行しても、全てのてんかんを防ぐことはできません。
しかし、犬の全体的な健康と安全を維持することで、発症リスクを最小限に抑えることができます。

犬のてんかんの予後

犬のてんかんの予後は、症状の重さ、頻度、そして治療法の効果に大きく依存します。
その中でも特に重要なのは、てんかんのタイプそれに伴う他の健康問題の有無です。

  1. 特発性てんかん:
    特発性てんかんは最も一般的な形で、脳の構造上の異常なしに発症します。
    このタイプのてんかんは、適切な薬物治療を受けることで、多くの犬が安定した生活を送ることができます
    しかし、完全に症状が消えるわけではありません
    また、一部の犬は薬物に十分に反応しないか、または副作用に苦しむ可能性もあります。

  2. 二次性てんかん:
    このタイプのてんかんは、脳腫瘍、脳炎、頭部外傷など他の医療問題に起因します。
    二次性てんかんの予後は、原因となる疾患の治療結果に大きく依存します。
    治療が成功すれば、発作の頻度と重症度は大幅に減少します。
    しかし、根本的な問題が治療不可能な場合、予後は不明確となります。

  3. 発作クラスターや状態てんかん:
    これらは犬のてんかんの中でも最も重症な形で、発作が連続したり、一度に長時間続いたりします。
    これらの状態は緊急事態であり、適切な治療を受けなければ生命に影響を及ぼす可能性があります。
    適切な対応と管理を行えば、これらの犬も一定の生活品質を維持することが可能ですが、予後は一般的に不確定です。

犬のてんかんは一般的に管理可能な状態であり、適切な治療とケアを提供すれば、多くの犬が充実した生活を送ることができます。
しかし、それには定期的な獣医とのコンサルテーションと、発作の発生パターンや頻度の厳密なモニタリングが必要です。
常に獣医との密接な連絡を保つことで、最善の治療プランを決定し、犬の生活品質を最大限に保つことが可能です。

まとめ

犬のてんかんは、神経系の疾患で、発作が特徴的な症状として現れます。
発作は、空気をかみつく、突然の落ち着きの無さ、失神、体のけいれんなどさまざまな形で表れます。
種類には、特発性てんかん二次性てんかん、そして発作クラスターや状態てんかんなどがあります。
それぞれの予後は、そのタイプや、それに伴う他の健康問題の有無によって変わります。

特発性てんかんは、最も一般的な形で、適切な薬物治療によって、多くの犬が安定した生活を送ることができます。
二次性てんかんの予後は、原因となる疾患の治療結果に大きく依存します。
発作クラスターや状態てんかんは最も重症な形で、適切な対応と管理が求められます。

治療法としては、薬物療法が最も一般的で、フェノバルビタールやポトブロモイドなどが用いられます。
予防法としては、ストレスの管理健康な食事適度な運動が重要です。
特に、発作のトリガーとなる可能性がある要素を避けることが大切です。

犬のてんかんは、適切な治療とケアにより、一般的に管理可能な状態です。
しかし、それには定期的な獣医とのコンサルテーションと、発作の発生パターンや頻度の厳密なモニタリングが必要となります。

 

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