犬の異物誤嚥(いぶつごえん)

犬の異物誤嚥~愛犬が誤って飲み込んではいけない物を飲んでしまったら~

 犬の異物誤嚥(いぶつごえん)とは、化学薬品や金属などの毒物のほか、毒性を発揮する植物、また面白半分で部屋の中の小物を飲み込んでしまうということもあるでしょう。
 ですから部屋の中にいても外にいても、常に大なり小なり誤飲事故の危険性と隣りあわせだというわけです。

 ここでは、犬の異物誤嚥の主な原因はもちろん、症状から対処法などをまとめています。


  • 犬の異物を飲み込んだ際の主な症状
  • 犬の異物を飲み込んだときの応急処置・治療法

犬の異物を飲み込んだ際の主な症状

異物を飲み込んだ際の主な症状
☆何も食べてないのに口をパクパク
☆えづく(吐こうとするが何もでない)
☆ぐったりする
食欲不振
呼吸困難
☆チアノーゼ(酸欠で舌、口の中の粘膜、歯茎が青紫色になる)

犬の異物を飲み込んだときの応急処置・治療法

 犬の嘔吐を促す際、以下の場合は危険ですので、行わないで下さい。
  • 「強い酸やアルカリを飲んだ場合」、
  • 「灯油やガソリンなどの石油類を飲んだ場合」、
  • 「昏睡やけいれん、ショックを起こしている場合」、
  • 「制吐薬を服用した場合」
 むやみに行うと食道を傷つけたり肺炎を起こす危険性があります。
 また飲み込んだものを吐き出させる催吐剤として、かつては塩水(小型犬ならスプーン2杯程度/大型犬なら5~6杯)が用いられていました。
 しかし量を間違うと、この処置自体が急性食塩中毒を引き起こしてしまう危険性があるため、他の方法を優先することをお勧めします。

  • 異物を取り出す 
    口をのぞいて異物がひっかかっているのを確認できるようなら、ピンセットや指先で取り除いてあげます。
    ただし不用意に動くと口の中を傷つけてしまいますので、十分に保定(動かないように固定すること)した状態で行うよう気をつけます。

  • オキシドール溶液 
    犬が異物を飲み込んでしまい、それが鋭利なものやのどに損傷を与える薬品(酸性・アルカリ製品・石油製品など)でない場合は、応急処置としてオキシドール(過酸化水素)溶液を使うこともあります。
    オキシドールは薬局などで売っている消毒用のもので結構です。
    誤飲してから1時間以内に、3%溶液を体重1kg当たり1~2ml飲ませます。
    自発的には決して飲んでくれないので、口の端からスポイトなどで注ぎ込み、手で口を閉じて強引に上を向かせると飲み込ませることができます。

  • トラネキサム酸 
    「トラネキサム酸」は止血薬として承認されている医薬品ですが、副作用として吐き気を催すため催吐剤として転用される場合があります。
    体重1kg当たり20~50mgの投与すれば、ほぼ100%の確率で嘔吐を誘発でき、また目立った副作用は見られず、投与後24時間でほぼ元の状態に戻るといいます。
    オキシドールに比べるとより体への負担が少ないと考えられますので、もしかかりつけの動物病院がこの誤飲処置法を行っている場合は、そちらを優先した方がよいでしょう。

  • 内視鏡による摘出 
    犬が異物を吐き出さず、なおかつ自然に便として排出される可能性が無いと判断された場合は、内視鏡と鉗子(医療用のマジックハンド)を用いて異物を体内から取り出します。
    異物が大きいときは開腹手術が必要となることもあります。

  • 外科手術 
    食道の下部に異物がどとまっている場合は、肋骨の隙間にメスを入れて食道を切開するという開胸アプローチ法や、腹部を切り開き食道を切開することなく胃の入口(噴門部)から異物に迫る開腹アプローチ法などが行われます。
    2017年にオーストラリアのチームが行った調査では、内視鏡で摘出することができず外科手術に切り替えた場合の死亡リスクは内視鏡だけの場合に比べて20.1倍に高まると計算されました。
    しかし死亡リスクを恐れ、手術を行ったほうがよいのに強引に内視鏡を用いると、それはそれで死亡リスクが高まることも示唆されています。

  • 胃洗浄 
    胃洗浄とは、口や鼻からチューブを差し込み、胃の中に生理食塩水を強引に流し込むことで胃の中を洗う手技です。
    口を胸よりも低い位置に固定し、洗浄液が透明になるまで15~20回、注入と吐き出しを繰り返します。
    催吐剤に反応しなかった場合や、致死的な毒物を誤飲したときなど、緊急を要する際に行われるのが常です。

  • 吸着剤投与 
    毒物を吸着する性質を持った活性炭を投与し、腸からの毒物吸収を阻止します。
    有機リン、ストリキニーネ、エチレングリコール(不凍液)、ヒ素、農薬等には有効ですが、シアン化合物には効きません。
    体重1kg当たり1~8gの活性炭を水に混ぜて混濁液として投与します。苦みがあるため、通常は胃カテーテルが用いられます。

  • 下剤 
    上記吸着剤と併用する形で用いられます。
    毒物を吸着した活性炭を、なるべく早く体外に排出することが目的です。
    用いられるものは、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ソルビトール、ラクツロースなどがあります。
    なおヒマシ油は脂溶性薬物の吸収を逆に早めてしまう危険性があるため、急性中毒においては使用不可とされています。

  • イオントラップ 
    毒物が腎臓の尿細管で再吸収されるのを妨げるため、毒物を酸性かアルカリ性のどちらかに偏らせます。
    毒物がエチレングリコール、アスピリン、フェノバルビタールなどの場合は尿をアルカリ性に偏らせ、毒物がアンフェタミン、カフェイン、ストリキニーネなどの場合は、逆に酸性に偏らせるのが有効です。

犬が飲み込んだ異物別の症状と処置・治療法

いずれの場合も必ずすぐに病院へ行ってください。

種類 症状/注意点/処置
ヒモ状のもの(糸など)

症状:
長いものを飲みこんでしまうと腸閉塞の原因となります。
その際には、嘔吐、食欲不振、腹痛などの症状が見られます。
また、糸が舌の根元に絡まって嚥下(飲み込み)に障害が出ることがあります。

注意点:
口や肛門から糸やヒモが出ていたとしても、無理に引っ張ると内臓などを傷つけること可能性がありますので、絶対に引っ張らないでください。
処置:
開腹手術を行い摘出します。閉塞がなければ、内視鏡で摘出可能なこともあります。
先が尖ったもの
(竹串、ピン、くぎ、針など)
症状:
異物が口腔内や消化管粘膜を傷つけたり、穿孔したり、ほかの臓器を傷つけたりする危険性があります。
食欲不振、腹痛、嘔吐、発熱などの症状が見られます。

注意点:
内臓や粘膜を傷つけたりする可能性が高いので、決して吐かせないようにして下さい。

処置:
異物の小さく、便と一緒に排泄が期待できる場合には、高繊維食を摂らせて経過観察になる場合があります。
それ以外の場合は、内視鏡か開腹手術による摘出を行います。
たばこ 症状:
たばこに含まれるニコチンによる中毒症状が、摂取後数分間で起こります。
興奮して活動的になり、よだれを流したり、嘔吐、下痢などが見られたりします。
最悪の場合、昏睡に陥って死亡する可能性もあります。
処置:
まずは吐かせるような対応をを行います。
すでに症状が見られる場合には中毒症状を抑える処置を行います。
漂白剤 症状:
家庭用の漂白剤に含まれる次亜塩素酸ナトリウムは腐食性ですので、口腔内や消化管粘膜に炎症や傷害をひき起こします。よだれを流したり、嘔吐、吐血などが見られたりします。原液が目に入った場合には、激しい刺激により角膜や虹彩に傷害が起こり、最悪の場合には失明をすることもあります。
皮膚に長時間接触した場合には、水胞や発疹が見られます。
対処法:
吐かせることで食道の粘膜を傷つけてしまうので、漂白剤を飲んでしまっても吐かせないようにしましょう。
水を多めに、かつ吐かない程度摂らせていただき、すぐに受診してください。
原液が目に入った場合には水で十分に(15分以上)洗い流し、症状が見られなくても念のためすぐに受診しましょう。
漂白剤が皮膚についた場合は、ヌルヌルがなくなるまでよく洗い流し、症状が見られるようであれば受診してください。
病院での処置:
水分を多く摂らせて希釈するとともに、制酸、吸着を目的とした薬剤の投与、対症療法を行います。

乾燥剤、脱酸素剤

症状:
乾燥剤には主にシリカゲル、塩化カルシウム、生石灰があります。シリカゲルは毒性が低く、ほとんど問題ありませんが、塩化カルシウムと生石灰は毒性が強く、口にすると粘膜の炎症や潰瘍をひき起こし、目に入ると結膜や角膜の傷害を起こします。
脱酸素剤の主成分は鉄粉の場合がほとんどで、毒性は低く、大量に食べなければ重篤な中毒を起こす心配はありません。
対処法:
まずは乾燥剤、脱酸素剤の種類を確認して下さい。成分が分からない場合にはメーカーに問い合わせていただき、対応について動物病院の先生の指示を仰ぐと良いでしょう。塩化カルシウム、生石灰の場合は水を多めに、かつ吐かない程度飲ませて、すぐに受診して下さい。目に入った場合は水で十分に(15分以上)洗い流してから受診して下さい。
病院での処置:
粘膜保護剤の投与および対症療法を行います。
保冷剤 症状:
大量摂取でなければ問題のないものもありますが、保冷剤の種類によっては、成分にエチレングリコールが含まれているものがあります。この場合には中毒を起こす危険性があります。摂取量によっては神経症状、腎障害、低カルシウム血症などを起こし、死亡することもあります。
夏の熱中症対策に保冷剤を利用される飼い主さんは多いようですが、犬や猫がかじってしまうことも多く、十分な注意が必要です。
対処法:
保冷剤の種類と成分、どのくらい食べてしまった可能性があるかを確認します。エチレングリコールが含まれている可能性があるようならすぐに受診して下さい。
病院での処置:
摂取直後で症状が見られない場合には催吐処置を行います。吸着を目的とする活性炭や下剤の投与とともに、対症療法を行います。
ヒトの医薬品 症状:
薬の種類によっては、大量摂取でなければ問題がないものもありますが、薬の種類や摂取量によって中毒症状を起こすものもあります。症状は薬の種類によって様々です。薬のシートなどをそのまま飲みこんでしまった場合には、咽頭部や食道、胃粘膜などを傷つけ、食欲不振や嘔吐などの症状が見られることもあります。
対処法:
どのような薬(薬剤名、剤型、含有量など)をどのくらい飲んでしまった可能性があるかを確認します。動物病院に連絡をして、すぐ受診するかなど、対処法について指示を受けて下さい。
病院での処置:
誤飲した薬の種類や症状によって異なりますが、直後であれば催吐処置を行ったり、解毒剤や活性炭の投与、輸液などの対症療法を行ったりします。

食用油 症状:
少量なめた程度では問題ない場合もありますが、ある程度の量を摂取すると嘔吐、下痢などの消化器症状を起こします。重症の場合は膵炎を起こすことがあります。
揚げ物や脂っこい食べ物を大量に食べてしまった場合にも同じような症状が起こります。
対処法:
症状が見られる場合やある程度の量を飲んだ可能性がある場合にはなるべく早く受診しましょう。
食用油は、気管に入り肺炎をおこす危険が高いため吐かせてはいけません。
病院での処置:
対症療法を行います。膵炎が疑われる場合には、膵炎の治療を行います。
お酒 症状:
少量なめた程度では問題ない場合もありますが、ある程度の量を摂取すると運動失調、行動異常、興奮、あるいは沈うつなどの症状があらわれます。重篤な場合は昏睡に陥って死亡する場合もあります。
犬は与えられるとビールなどを大量に飲んでしまうことがあるので注意しましょう。
対処法:
症状が見られる場合やある程度の量を飲んだ可能性がある場合にはなるべく早く受診しましょう。
病院での処置:
摂取後は吸着のため、速やかに活性炭を投与し、対症療法を行います。

 

使い捨てカイロ

症状:
使い捨てカイロの成分は鉄粉、水、食塩、活性炭、バーミキュライトなどです。毒性は低く、一般的には重篤な中毒を起こす心配はありません。大量に食べると下痢や嘔吐が見られることがあります。使用中のものは発熱しているため、食道や胃腸の粘膜を傷つけることがあります。

対処法:
下痢や嘔吐、食欲不振などの症状があれば受診してください。
病院での処置:
対症療法が中心となります。
ペットシーツ、ティッシュなど 症状:
ペットシーツの中身は綿状パルプ、高分子吸収体、吸水紙などからできています。通常は便と一緒に排泄されますが、一度に大量に食べた場合など、嘔吐や下痢などの症状をひき起こすことがあります。また、お腹の中で水分を吸って膨張し、腸閉塞のような状態になることもあります。ティッシュも同様です。
対処法:
大量に食べてしまった場合や、下痢や嘔吐、食欲不振などの症状がある場合は受診してください。
病院での処置:
対症療法が中心となります。
腸閉塞が疑われる場合には、外科的処置を行うこともあります。

靴下、タオル、雑巾などの布類、ボール、マスコット、人形などのおもちゃ、プラスチックなど 症状:
どうぶつの大きさと異物の大きさによっては、無症状で経過し便とともに排出されることもありますが、異物が胃内に留まったままであったり、腸閉塞を起こしてしまっていたりすると、嘔吐、食欲不振、腹痛などの症状が見られます。布類を引きちぎって食べているような場合だと、上述のヒモ状異物と同様の状態となり、非常に危険です。大きな異物の場合は食道に詰まってしまい、吐きたいけど吐けない、呼吸困難などの症状が出ることがあります。
対処法:
飲みこんだ可能性があるものの大きさと素材を確認します。ある程度の大きさのものを飲み込んだ可能性が高い場合や症状が見られている場合には、すぐに受診してください。その際、可能であれば同じもの、または現物が写っている写真などを持参すると良いでしょう。
飲み込んだものが、ごく小さいもので、特に症状が見られない場合には、便の中に排泄される可能性もありますが、念のためかかりつけの先生に連絡して指示を仰ぐと良いでしょう。なお、繊維質を多めに摂らせるようにすると、便のかさが増やし、異物により腸が傷つくのを防ぐことができる場合もあります。また、便をしたら中に異物が含まれていないかを排便の度、便をほぐして確認するようにしましょう。
病院での処置:
X線検査、造影検査、超音波検査などで異物を確認します。異物の大きさが小さく、腸閉塞を起こすリスクが少なく、かつ便中への排泄が期待できる場合には、高線維食を摂らせて経過観察を行います。
誤飲した直後の場合には、異物の形状が胃や食道を傷つけたり再閉塞させる危険の少ない場合などでは催吐処置を行うこともあります。
また、内視鏡により異物の摘出を行うこともあります。
これらの方法で摘出が難しい場合には、開腹手術を行います。
電池 症状:
電池の大きさや形状によりますが、消化管を通過してそのまま排泄されれば、特に症状を示すことはありません。しかし、食道や胃などに長時間留まってしまうと、放電や電池の崩壊によって粘膜の損傷や潰瘍を引き起こすことがあります。
対処法:
飲んだ電池の種類を確認して、すぐに受診してください。
病院での処置:
X線検査で電池の位置を、時間を追って確認して、消化管内を移動しているようなら自然に排泄されるのを待ちます。停留している場合や腸閉塞の危険性がある場合には、内視鏡による摘出や外科的処置を検討します。
硬貨 症状:
消化管を通過してそのまま排泄されれば、中毒症状を示すことはありません。しかし、どうぶつの大きさによっては胃などに長期間とどまって粘膜を刺激し嘔吐や食欲不振の原因になったり、腸閉塞を起こしたりすることも考えられます。
対処法:
特に症状がなくても、確認のために受診してください。
病院での処置:
X線検査で硬貨の位置を、時間を追って確認します。停留している場合や腸閉塞の危険性がある場合には、内視鏡による摘出や外科的処置を検討します。

 

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