犬の髄膜脳炎(ずいまくのうえん) ~ふらつき、けいれん、硬直~
脳とそれを包んでいる髄膜に炎症が発生した状態のことです。
犬の中枢神経は脳と脊髄から成り立っており、それらを守るように髄膜(または 脳脊髄膜)が外側を覆って、内部には髄液(または 脳脊髄液)と呼ばれる液体が循環しています。
脳に発生した炎症が「脳炎」、脊髄に発生した炎症が「脊髄炎」、そして髄膜に発生した炎症が「髄膜炎」です。
「髄膜脳炎」と言った場合は、脳と髄膜の両方に炎症が発生した状態を指しています。
脳と脊髄は髄液によって連絡しているため、脳の炎症が脊髄にも波及し、「髄膜脳脊髄炎」に発展することもあります。
脳炎は、ウイルスや細菌、寄生虫などの病原体による感染性とそれ以外の非感染性に分けられます。犬の脳炎では、非感染性のものがほとんどです。
非感染性では、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)壊死性髄膜脳炎(NME)ステロイド反応性髄膜炎・動脈炎(SRMA)などが挙げられます。
いずれも比較的若い年齢で発症する傾向があります。詳細は以下に説明を致します。
- 非感染性脳炎の種類について
- 犬の髄膜脳炎の主な症状
- 犬の髄膜脳炎の主な原因
- 犬の髄膜脳炎の主な治療法
- 犬の髄膜脳炎の予防
- 最後に
非感染性脳炎の種類について
<肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)>
肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)は、様々な犬種で発症します。その中でも若年から中年齢の小型犬での発症が比較的よくみられます。
脳に瘤(腫瘤)ができるタイプと、脳全体に広がるタイプがあります。
まれに視神経などに病変が見られるタイプもみられます。
<ステロイド反応性髄膜炎・動脈炎(SRMA)>
ステロイド反応性髄膜炎・動脈炎(SRMA)は、ビーグル、ボクサー、バーニーズ・マウンテン・ドッグなどによくみられます。
若年でよく見られ、頚部痛や発熱などが発症し、背中を丸めながら歩くぎこちない歩行がなどの症状が現れます。
犬の髄膜脳炎の主な原因
主な症状 |
☆けいれん |
☆体の硬直(特に首) |
☆ふらふら歩く |
☆発熱 |
☆足を引きずるように歩く |
☆視力障害(ものにぶつかる) |
☆知覚過敏 |
上記以外にも様々な症状があり、炎症が起こっている部位や広がりによっても、現れる症状は異なります。
犬の髄膜脳炎の主な原因
- 感染症による髄膜脳炎
各種の病原体に感染することで発症することがあります。
真菌ではクリプトコッカス、ブラストミセス、コクシジオイデス、ウイルスではジステンパーウイルス、原虫ではトキソプラズマやネオスポラなどです。 - 免疫の混乱による髄膜脳炎
免疫系統の混乱により、本来守るべきはずの自分自身の細胞や組織を攻撃することで炎症が発生してしまうことがあります。
真菌や細菌が確認されないことから「無菌性髄膜脳炎」または「免疫介在性髄膜脳炎」とも呼ばれます。 - 免疫力が低下による髄膜脳炎
免疫力が低下していると、通常であれば抑え込めるはずの病原体の繁殖を抑制できず、炎症に発展してしまうことがあります。 - 腫瘍による髄膜脳炎
脳や脊髄に発生した腫瘍が原因で炎症が起こってしまうことがあります。
犬の髄膜脳炎の主な治療法
- 対症療法
原因がはっきりしない以上、疾患の原因を取り除くよりも、症状の軽減を目的とした治療が施されます。
具体的には免疫抑制剤や抗炎症薬の投与、放射線治療などです。
しかし病気を完治させることはなかなかできません。 - 投薬による治療
感染性の場合は、抗生剤投与など、原因となる病原体に対する治療を行います。
非感染性の場合は、ステロイド剤などの免疫抑制剤が使用されます。 - 2次被害の予防
発作やふらつきによる不慮の事故を予防するため、危険な場所での散歩はなるべく避けるようにします。
具体的には、交通量の多い場所、傾斜のきつい場所、溺れる可能性のある水場などです。
犬の髄膜脳炎の予防
非感染性の脳炎(髄膜脳炎)の予防方法は特にありません。
感染性脳炎の原因のひとつである、犬ジステンパーウイルスに対してはワクチン接種ができます。
犬ジステンパーウイルスには根本的な治療方法はなく、ワクチン接種による予防が最も重要になります。
犬におかしい様子があれば、動物病院を受診しましょう。
最後に
脳炎は急激に悪化し、亡くなってしまうことも少なくありません。
また、時にはとても大きな苦痛を伴う事もあります。
治療で改善の見込みがなく、苦痛がひどい場合は、とても悲しい決断にはなりますが、安楽死も選択肢として挙げられます。
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