犬のボツリヌス中毒

犬のボツリヌス中毒~足から頭にかけて麻痺症状がだんだんと広がっていたら~

「犬のボツリヌス中毒」とは、犬がボツリヌス菌という細菌に感染した際に発症する病気です。
詳しく言うと、クロストリジウム属の細菌である「クロストリジウムボツリヌス」(Clostridium botulinum)が産生する神経毒素によって神経が障害を受けた事によって発症する中毒です。

ボツリヌス菌はA~Gまでの7種類に分類されており、人間の中毒症状を引き起こすタイプとしては「A・B・E・F」の4型、犬の中毒症状引き起こすタイプとしては「C型」が確認されています。
主に腐った食品に含まれるボツリヌス神経毒を摂取すると、神経筋接合部におけるアセチルコリンの放出が抑制され、筋肉の収縮障害と自律神経障害が引き起こされます。

ボツリヌス中毒の主な症状は、早ければ毒素の摂取から2~3時間、遅くとも6日以内に現れます。

この病気は、犬の体内に存在するボツリヌス菌が増殖し、繁殖した際に発症します。
症状は重篤で、命にかかわることもあります
そのため、犬飼いの方々はこの病気について十分に知識を持ち、適切な対処をすることが重要です。

ここでは、犬のボツリヌス中毒の主な原因はもちろん、症状から対処法などをまとめていますので、是非ご参考になさって下さい。



犬のボツリヌス中毒の主な症状

犬のボツリヌス中毒の主な症状は、ボツリヌス菌を口に入れてから数時間から6日くらいの間に、後足から頭にかけて麻痺症状がだんだんと広がっていきます。
軽度の場合は、自然に回復する事が多いです。
しかし、重度の場合は、適切な治療を行ったとしても障害が残ります。

犬のボツリヌス中毒の主な症状は、以下のようになります。

  1. 呼吸困難: 呼吸筋が麻痺し、呼吸が困難になることがあります。

  2. 食欲不振: 食欲が低下し、食べ物を拒否することがあります。

  3. 下痢や便秘: 腸の筋肉が麻痺し、下痢や便秘が生じることがあります。

  4. 全身の弱さ: 全身に力が入らず、立ち上がれなくなることがあります。

  5. 瞳孔の拡大: 瞳孔が拡大して、光に対する反応が鈍くなることがあります。

これらの症状が現れた場合は、速やかに獣医師の診察を受ける必要があります。
また、ボツリヌス中毒は重篤な病気であるため、早期発見と治療が非常に重要です。

また、障害の出る場所によっての症状は下記の通りです。

  主な症状
末梢神経の障害  急性の脱力が後足→体幹→前足へと進行し12~24時間で歩けなくなります
 筋肉の収縮はできなくなるもののしっぽだけは動かすことができ、感覚も残っています。
 筋の萎縮が現れるのは1週間くらい経過してからです。
自律神経の障害  光に対する瞳孔の収縮が見られなくなり、消化管の蠕動運動が減弱します。
 涙の産生が減少してドライアイや角膜炎を併発し、また膀胱や直腸の神経が障害されて自力排尿や排便ができなくなります
脳神経の障害  ヨダレを垂れ流すようになり食事を飲み込むことができなくなります
 鳴き声も弱々しく、まぶたを完全に閉じることができなくなります。
 また食道の蠕動運動が消失することにより食道アカラシアを併発します。

犬のボツリヌス中毒の主な原因 

犬のボツリヌス中毒の主な原因は、腐った食品に存在するボツリヌス菌を口にする事によります。

  • ボツリヌス毒素の摂取
    ボツリヌス中毒の主な原因は、ボツリヌス菌による中毒です。
    この菌は、土壌中や水中に存在し、動物の排泄物にも含まれています。
    犬が感染する主な原因は、腐敗した動物の死体や堆肥、腐敗した魚や肉などの摂取です。
    また、傷口からの感染や、生食や加熱不十分な食品からの感染もあります。
    ボツリヌス菌は、特に酸素のない環境で繁殖するため、缶詰や密封された食品でも中毒の原因になることがあります。
※人間の乳児のボツリヌスリスク
人間においては一歳未満の乳児に蜂蜜を与えてはならないという約束事があります。
これは、蜂蜜の中に含まれるボツリヌス菌の芽胞を摂取することにより、体内で毒素が産生されてしまうためです。
これを「乳児ボツリヌス症」といいます。
最悪のケースでは呼吸筋の麻痺から死に至ることもありますので、十分に気を付けなければなりません。
なお大人が蜂蜜を摂取しても平気なのは、ボツリヌス芽胞の発芽を妨げる腸内細菌が備わっているためだと考えられています。
 

犬のボツリヌス中毒の主な治療法 

犬のボツリヌス中毒の治療法は、主に以下のようなものがあります。

  1. 呼吸器のサポート
    ボツリヌス中毒によって呼吸器が弱くなった場合、人工呼吸器や酸素供給器具などで呼吸をサポートすることが必要になる場合があります。

  2. 対症療法
    毒素によって引き起こされた症状に対するその場その場の治療が施されます。
    嚥下困難をきたしている場合はチューブによる強制給餌、排尿障害があるような場合は人為的な膀胱圧迫やカテーテル挿入による排尿、骨格筋の麻痺で寝返り打てないような場合は床ずれの予防などです。
    その他、ドライアイや角膜炎、誤嚥性の肺炎などへの注意が必要となります。
    回復までには1~3週間かかるのが普通です。
  3. 抗毒素の投与
    ボツリヌス中毒の治療には、抗毒素を使うことが一般的です。
    抗毒素は、毒素を中和する働きがあります。
    C型抗毒素がある場合は、静脈注射や筋肉注射によって投与されることがあります。

    ただし、抗毒素は症状が出始めてから早めに投与しなければ効果がない場合があります。

    またアナフィラキシーショックという激しいアレルギー反応を引き起こす可能性がゼロではないため、全身投与の20分ほど前に、事前検査をしておく必要があります。

  4. 消化器のケア
    犬が吐き気を感じている場合は、胃液の刺激を抑えるために抗酸化剤や鎮吐薬を処方することがあります。
    また、消化器のトラブルがある場合は、消化器のケアも重要になります。

  5. サポート療法
    犬の体力が低下した場合は、経口摂取ができなくなることがあります。
    その場合は、静脈内輸液による栄養補給や、胃ろうによる栄養補給を行うことがあります。

治療はできる限り早期に行うことが重要です。
病状が重い場合は、入院治療が必要になる場合があります。また、治療を受けても予後が悪い場合があるため、早期発見・治療が必要です。

ボツリヌス中毒の予防 

犬のボツリヌス中毒の予防方法には以下のようなものがあります。

  1. 食品の管理:
    犬に与える食品や水の衛生管理に注意し、腐った食品や異臭のするものは避け、新鮮で衛生的なものを与えるようにしましょう。

  2. キャニスター缶の使用:
    開封した缶詰はすぐにキャニスター缶などに移して保存し、冷蔵庫に保管することをおすすめします。

  3. 食品の加熱:
    生肉や生の魚を与える場合は、加熱してから与えるようにしましょう。

  4. 自家製のフードを作る場合:
    犬用に自家製の食事を用意する場合は、十分に加熱してから与え、衛生的な状態で保存するようにしましょう。

  5. 獣医師の定期検診:
    犬の健康状態を定期的に獣医師に診てもらい、適切な予防接種を受けさせることも重要です。

  6. 拾い食いのしつけ:
    ボツリヌス中毒の多くは、犬が腐ったものを食べることによって発症します。
    散歩の途中、犬がゴミ箱や落ちているものを漁らないよう、拾い食いのしつけをしておくことは、予防医学の観点から非常に重要です。

以上の予防方法を実践することで、犬のボツリヌス中毒の発症を予防することができます。症状が出た場合は、早急に獣医師に相談し、適切な治療を行うことが大切です。

ボツリヌス中毒の予後

犬のボツリヌス中毒は重篤な疾患であり、早期に治療を開始しなければ、死亡する可能性があります。
治療が適切に行われれば、症状は改善されますが、完全に回復するまでには時間がかかる場合があります。
また、治療中に合併症が発生する場合があるため、治療が継続的かつ適切に行われることが必要です。

予後は症状の重症度、治療の遅れや適切さ、合併症の発生などによって異なります。
正確な予後を知るためには、獣医師に相談することが必要です。
予防には、適切な食品管理と処理、傷口や切開部位の清潔な管理、可能な限りの外部環境の清潔さなどが必要です。

まとめ

犬のボツリヌス中毒は、ボツリヌス菌が原因で起こる病気であり、主な症状は食欲不振、嘔吐、下痢、筋肉の弱さ、呼吸困難などです。主な原因は腐敗した食物、または獲物を食べたことです。

治療法としては、抗毒素の投与や人工呼吸などがありますが、予後は重症化すると死に至ることがあるため、早期発見と治療が必要です。

予防としては、食物や水の衛生管理、獲物の消化不良の可能性がある場合は、食べさせないことが重要です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA